2016年 01月 14日
モモンガの撮影のガイドとTIPS |
エゾモモンガの撮影をしたいという問い合わせや、宿泊予約がポツポツあります。モモンガの撮影は初めてという方が多いようなので、以下の話はモモンガ撮影についてのあれこれです。野鳥や野生動物の撮影に慣れている方や寒冷地の撮影に慣れている方にとっては、基本でしょ、という話しも多く含まれていますが、せっかく遠方から撮影に来られる方の失敗が少しでも減るよう、書いておきます。
撮影に来られた方には正直に話すのですが、撮影のガイドが付いても、モモンガを初めて撮影される方で良い写真が撮れる確率は半分ぐらいで、失敗する方も多いのです。失敗の原因は大きく分けて、警戒させてしまってモモンガが出てこないか、夜間の屋外でのストロボの撮影に慣れていなくて失敗する、何故かモモンガが出てこないの三つです。
先ずはストロボを使用したモモンガの撮影についてですが、ストロボの閃光で止めますから手振れはあまり気になりません。上の写真は昨日の夕方撮ったものですが、カメラはEOS7DでレンズはEF100-400mm。ISO400で400mm端で露出はマニュアルにしてf5.6開放です。この時は背景の色を出したかったためにシャッター速度は1/25で手持ちですが、風も無かったですし、モモンガが全く動かないので問題なしです。背景を黒く落としていいなら、被写体ブレの心配も少ない1/200で撮ります。
注意しなければならないことはAF補助光を出さないことです。準備中にシャッター半押しなどでAFでピント合わせをしていて、気づかずにAF補助光が点灯すると穴の中に居るモモンガを警戒させることがあります。AF補助光が点灯しないよう事前にオフにしておくことを忘れないで下さい。
ストロボ内蔵のカメラや、ストロボをカメラの上にクリップオンで着けると、モモンガが赤目になることが多いです。大きな黒目がしっかり写ることが大事ですから赤目は避けたい。といって赤目防止のプレ発光は使えません。赤目防止にもならないしモモンガに警戒させるだけですから、赤目防止のプレ発光は必ずオフにしておく必要があります。
ストロボの位置をカメラから30cm以上離せば、赤目はかなり避けられます。アクセサリープレートなどを使ってストロボを離すか、別の三脚などを用意してストロボを離すかですが、赤外線などの光を使ったスレーブでは屋外では連動発光しないことが多々あります。家でテストしたときには点いたのに、という事が多いのですが、屋内では光が廻りますから屋外とは違います。オフカメラストロボの場合は出来ればケーブルで繋いで連動させるか、または無線で連動させることをお奨めします。
明るい時間にモモンガが出てくれれば、初めのうちはAFが効きます。が、暗くなるに従ってAFが使えなくなってきます。モモンガが肉眼で確認できる間はAFが効かなくなったらマニュアルでピント合わせをします。目にピントを合わせますが、私の場合は1枚ごとにピントを合わせ直すことで、ピンぼけの確率を減らしています。
さらに暗くなってファインダーでピントの確認がしづらくなったら、懐中電灯で弱い灯りをモモンガに当てます。F2.8など明るいレンズでカメラの性能が良ければ、この程度の灯りでもAFが効きますが、そうでなければ懐中電灯の明かりで光る目にマニュアルでのピント合わせで撮ります。
カメラのISO感度は許容範囲内で出来るだけ高くして下さい。私の場合7DならISO400、5D2ならISO800ですが、最新のカメラならもう1~2段はあげられるでしょう。ISO感度を上げることでストロボの発光量を落とすことができますから、より警戒されにくい弱い光で撮ることが出来ます。また、発光量が小さければストロボのチャージが早くなりますから連写にも有利です。
撮影は夕方ですから気温が下がります。場合によってはマイナス10度以下になります。撮影時間は準備から終了まで長くとも1時間ぐらいですが、それでもバッテリーに問題が出ることがあります。
カメラ本体のバッテリーはフル充電のものを用意してください。問題はストロボのバッテリーです。通常、単3型電池を使うものが多いようですが、アルカリ電池は低温に弱いので使えません。エネループなどの充電式ニッケル水素電池ならば、モモンガの撮影程度ならば大丈夫です。高価にはなりますが使い捨ての単3型リチウムイオン電池が低温時は最強ではあります。
私の場合はニッケル水素単3型電池8本を使う外部電源をケーブルでストロボに繋いで、外部電源のケースはポケットの中で暖めながら使っています。
ここからはモモンガ撮影には限らない寒冷地撮影の話ですが、手元を照らしたり、帰り道に使うヘッドライトや手持ちの懐中電灯もアルカリ電池は不可です。少なくとも充電式のニッケル水素電池か、出来ればリチウムイオン電池がお奨めで、私の場合はヘッドランプも手持ちの懐中電灯もLEDですが、冬期は使い捨てリチウムイオン電池のCR123Aを使うものを使用しています。使い捨てリチウムイオン電池は高価ですが保存期間が製造後10年もありますから、非常用を兼ねて使える点ではメリットもあります。
これもモモンガ撮影に限らず寒冷地での撮影での話ですが、カイロで機材(バッテリー)を暖めるのは有効ではあります。ただし使い捨てカイロは全く使えません。使い捨てカイロは鉄の酸化の熱を利用したカイロですが、ポケットの中や体に張り付けてあるなら、その体温で化学反応を起こして発熱しますが、機材に張り付けておいても気温が低ければ発熱しないので使えないのです。
カイロは白金カイロか、あとは最近あまり見かけませんが(ヨドバシやamazonにはあります)木炭の棒状燃料を燃やすカイロがお奨めです。白金カイロの場合は燃料のベンジンが航空機に載せられませんから、現地で購入する必要があります。
モモンガの撮影に戻ります。モモンガが人を警戒して穴から出てこない場合もありますから、極力モモンガに警戒させないよう、撮影者側が気をつけなければなりません。モモンガが警戒するのは音、光、そして人の動きです。もしかしたら匂いもあるのかもと思ってはいますが、今のところこれは判りません。
音は、撮影前の準備段階が特に問題です。極力音を立てずに静に撮影機材をセットして、あとは気配を殺して出るのを待つのが普通です。そのためにはどうすれば良いのか? 現場での機材セットの試行錯誤はもっての外で、事前に練習してセットになれておく必要があります。モモンガの撮影ではカメラは手持ちの方が便利なことも多いのですが、初めての撮影では必要になったら両手が使える三脚使用を薦めています。
立って待つよりは坐っていた方が楽だし音も立てにくいので、折りたたみの椅子を用意して待ちますが、たとえば、この椅子の高さに合うよう事前に三脚の足の長さをロックして持ち込めば、素速く音も立てずにセットできます。その場で足の長さを決めようとしたら、どうなるかを想像して下さい。携帯電話をマナーモードにするのも忘れずに。せっかくモモンガが顔を出したときに電話が掛かって来て撮影をふいにした方も居ます。
光は、前にも書きましたが、AFの補助光や赤目防止のプレ発光が問題になります。また、暗くなってからモモンガが出てくる場合は懐中電灯の明かりで照らしますが、この光が事前にチラチラ動くのも良くありません。当てるなら弱い光で動かさずに明るいうちから当て続けた方がよい場合もあります。
ストロボの発光は意外なことに、穴から出てきてしまったあとなら、ほとんど影響が有りません。何度も撮影しているモモンガなら懐中電灯の明かりもストロボも慣れてしまって影響は与えません。それでも穴から出てくる前に巣穴に当てるテスト発光は御法度ですし、何匹も入っていると判っている場合には、1匹目は完全に出るまではストロボ撮影はしません。誰もが撮ってみたい穴から顔だけを出している絵を撮るのは、2匹目からを薦めています。1匹目が警戒して戻ってしまうと後が続かなくなるからです。一度警戒して動かないとなると1~2時間は出てこないこともあります。滅多にないことではありますが、そうなったらプレッシャーをそれ以上掛けないためにも、粘って待つのではなく撮影中止とします。
人の目にはほとんど真っ暗と言えるなかで、小枝を避けて滑空できるのですから、モモンガの視力は恐ろしく良いのでしょう。巣穴から顔を出しているのかどうか判らないほどの暗さでも、モモンガから見れば外にいる人など、真昼の明るさで見えているようなものなのかも知れません。
大きな動作、素早い動作は避けなければなりません。速い動きは野生動物や野鳥を驚かせ警戒させます。極力動かないのが良いのですが、動かなければならないときには、ゆっくりと静にです。
ウェアは出来るだけダークなアースカラーがお奨めです。迷彩柄が良いのは、単色のものより輪郭や姿が判断しにくく、背景に溶け込んで動きも誤魔化しやすいからでしょう。あれば濃いめの色合いの迷彩柄のウェアがベストです。
ウェアの色や柄は、これはモモンガを脅かさないという事だけではなく、実は他人に気付かれにくいというためにも必要です。残念なことですが、自分の力で撮影対象を捜さず、撮影者を捜すことによって撮影場所を見つけている人が(自称ガイドを含めて)居るのが現状です。この手の人は捜す苦労を知らないためなのか、撮影対象を大切にしないことが多いようにおもえます。また、通りがかりの人でも、撮影者に気付けば好奇心で、あとで巣穴に行って悪戯をされかねません。昼間、客に見せるためにモモンガの塒の穴のある樹を、棒で叩いたり蹴ったりしてモモンガに顔を出させることを平気でやるようなプロのネイチャーガイドもいます。野生動物の塒を不用意に人に知られることがないよう注意することも、残念ながら現状では必要なことなのです。
上記のような理由から、派手な色合い、明るい色合いのウェアを着てこられてガイドを頼まれても、その場合は必ずしも、その時点でのベストな撮影場所にはご案内できない場合もあります。
ウェアには音の問題もあります。防寒のパーカーなどでは生地が硬くてガサガサ音が立ちやすいものが多いのです。野鳥や野生動物の撮影や観察には、この手の生地のウェアは向きません。私はアメリカのハンティング用で、衣擦れの音のしない生地で作られた迷彩柄の防寒パーカーも使っています。防水性にやや難がありますが、静かな森の中での撮影で人の気配を消すためには、ここまで気を使う場合もあるのです。
3つ目の失敗の理由、モモンガが何故か出てこない。これはもう仕方が無いです。相手が野生動物ですし、こういうこともあると諦めていただくしかないのです。たとえば撮影に現場に行く前に天敵が穴に入っていたとか、寝坊して起きてくるのが遅くなったとか…外からは判らない理由があるのでしょう。
ガイドの場合には、できるだけ撮影できる確率が高くなるよう場所を選んでいますが、それでもこういうことが起きるということはご理解下さい。
初めての撮影では、どんな展開になるのかが判らないのですから失敗も経験のうちです。どんどん暗くなって周りは見えなくなっていきますし、撮影時間そのものは僅か5分か長くても20分ぐらいのことが多いのです。初めての撮影は状況を把握して、モモンガを観察する程度、撮影出来たらラッキーぐらいに思っていただいたほうが良いのかもしれません。初回失敗した方の多くが、二度目の撮影では良い写真を撮られています。
モモンガの撮影のガイドにつきましては「鱒や」へ宿泊の方のみを対象としております。「鱒や」の庭や歩いて行ける範囲なら、もちろん無料にてご案内しています。観察&撮影用の塒の穴へ車で出掛ける場合には、ガイド料金は一人3000円です。モモンガへのプレッシャーを減らすことと、撮影成功の確率を上げるため、ガイドは基本的には2名様までとしております。エゾモモンガの観察&撮影についての問い合わせはメール(このブログの左上、ロゴマークの下にメルアドが画像で張り付けてあります)か電話でお願いいたします。
by troutinn
| 2016-01-14 09:32
| 野鳥・野生動物