エゾヤマザクラ、エゾオオマルハナバチ、エゾエンゴサク。 |
いつも搾りたて牛乳を分けて貰っている切原牧場の牧草地の一本桜が満開です。ほぼ毎年5月の21日が満開ですから、今年は1週間以上早い満開です。紅色の濃いサクラで、ソメイヨシノのない道東ではサクラといえばこのエゾヤマザクラを指すことが多いようです。ヤマザクラですから花と一緒に葉も出てきますし、ソメイヨシノのようなボッテリと咲く豪華さはないのですが、サクラはサクラです。毛鉤釣り人にとっては、このサクラが咲くとやっとドライフライの季節の到来でもあります。
写真の方向から見て左側に伸びていた枝が折れてしまったのは、もう随分と前のことで見た目のバランスも悪くなってしまったのですが、それでもこのサクラのファンは多く、毎年花の時期になると待ちのアマチュアカメラマンたちが、このサクラを撮りに来ています。
樹の下でサクラの写真を撮っていると、ブンブンという音が聞こえてきます。虫たちがサクラの密に惹かれてやってきているのです。
花を付ける顕花植物は、人に見てもらうために花を咲かせるのではなく、虫たちに来て貰うために花を咲かせています。綺麗な花を看板にして、甘い蜜を餌にして、虫たちを呼び寄せ花粉を運んで貰うのが花を付ける目的です。エゾヤマザクラの誘いに乗せられてハナアブやマルハナバチが多く訪れていましたが、なかでも多かったのはエゾオオマルハナバチの女王達でした。この1本のサクラの樹に5〜6匹の女王バチが集まって来ているというのは壮観です。
ミツバチの女王は自分で餌を摂りに出ることはなく、一生を働きバチに助けて貰って生活しますが、マルハナバチの場合は秋にだけ出てくる雄バチと交尾した後は、越冬するのは女王バチだけで、雄バチも働きバチも死に絶えます。女王バチは春になったら独りで自分で巣を造る場所を捜して卵を産み、新たなコロニーを作り上げなければならないのです。ですから今時期、道東のフィールドで飛び回っているマルハナバチは全てが女王バチで巣を造る場所を捜しているのですが、いちどコロニーを作り上げてしまえば、あとは巣の拡張も子バチの世話も、働きバチが面倒を見てくれます。
写真のエゾエンゴサクは、フクジュソウやニリンソウ、カタクリなど種は違うのですが同じ戦略を採るスプリング・エフェメラルと呼ばれる植物のグループにも区分されています。他の植物が伸びて生い茂り花を咲かせる前に、先ずは春先に花を付けて虫たちを呼び、他の植物の日陰になる前に葉を茂らせ種を付け、夏前には葉も枯らしてしまうという、先手必勝型?植物なのです。
が、今年のように春に暖かな日が続いてスプリング・エフェメラルと一緒にヤマザクラが満開になってしまうと、これはマルハナバチの女王も、地上の小さなエゾエンゴサクよりはヤマザクラの方へ惹かれてしまうのでしょう。しばらく捜してみたのですが、ヤマザクラの近くに生えるエゾエンゴサクを訪れるマルハナバチは全く見かけませんでした。あれもこれもと花が一緒に咲くような暖かな春は、スプリング・エフェメラルにとっては、目立つことが出来ずに不利な年なのかもしれません。