白糠漁協はアメマスを駆除したのか? その後。 |
今年、川に産卵に上がるアメマスが少なかったのは漁協による駆除のためという説がネットで広まって、これを信じた釣り人も多かったようです。白糠漁協に釣り仲間がいるので訊いてみたところ、積極的な駆除は漁協としてはやっていない、という話を聞いたことは以前に、この日記に掲載しました。が、噂話は今年駆除したアメマスの量が30~50トンと妙にリアリティもあります。ここはもう少し追いかけて調べて見る必要がありそうと、もう一度詳しく訊いてみました。

上の表は白糠漁協から公式に出して頂いたものです。漁協からこの数字を公表する許可も頂いています。ここ5年分のデータをわざわざエクセルに表組みして頂きましたが、これを見ると判ってくることがあります。(H23の8月までは青地になっているのは、この表を渡してくれた釣り仲間の友人が、直接、ミール工場への出荷を担当していた時期を示しています)
白糠漁協では春秋の鮭の定置網の他、刺し網やホッキ貝、シシャモなどの漁を行っています。アメマスが混獲されるのはほとんどの場合が春の定置網漁で、秋の定置網の後期に希に産卵を終えて海に降りてきたとおもわれるアメマスが入ることはあるそうですが、他の漁でアメマスがまとまって混獲されることは無いとのことでした。
表の上段はミール工場へ送られた漁協の売上数量です。下段が定置網で混獲された雑魚の数量です。二つの数字が合わないのは定置で混獲された雑魚以外にも刺し網漁で出荷できない痛んだものや、漁協の一次加工で出た残滓物なども一緒にミール工場に売っているためです。
表を見るとアメマスの混獲が問題になるのは鮭の定置網、それも春の定置網の時期になります。今年、H25の5月から7月の春の定置網で獲れた雑魚は3ヶ月の総計で35.2トンです。ン?この数字はどこかで聞いたような…。
この混獲してミール工場に運ばれた雑魚のうちアメマスの比率がどのくらいなのかが問題になってきそうです。感覚的に混獲された雑魚の何割ぐらいがアメマスだとおもうかと、以前訊ねてみたところ、3割くらいかなぁ、との返事でした。が、幸いなことにこれに役に立つデータがあったのです。
混獲されるのはほとんどがシラミカジカとアメマスなのだそうですがH24だけは、この比率のデータを採ってあったのです。それによると平成24年度の春の定置網の3ヶ月で混獲された雑魚は24.4トン。そのうちのアメマスは7.285トンなのです。比率はなんと29.7%なのでした。比率を量ったデータがこの年度だけですから、これを全ての年に当てはめるのは危険ですが、以前に聞いた、おおよその感覚とほぼ同じなので、考え方の基本の比率としても良さそうにもおもえます。
ちなみに定置網の漁では、混獲されてしまった魚を生きたまま再放流出来る仕組みにはなっていないそうですし、混獲した雑魚類などのミール工場への販売は漁組にとっては少ないとはいえ利益になってもいるのです。
白糠漁協では定置網は東端の恋問から西端の尺別まで9箇所に入れているそうです。漁師の人たちが、アメマスを鮭の稚魚を喰う魚として快くおもっていないことは確かですが、春の定置と秋の定置は、盆休みを挟んで2週間ほどしか漁期が離れていませんから、アメマスを駆除するためになどと定置網を入れておく期間を故意に長くしておくことも出来ないのです。たとえ天候などの都合によって何日間か予定より長く網を入れておくことがあったとしても、月別の混獲数量から見てもアメマスに大きな影響があるともおもえません。
ただし、今年H25年度にはちょっとした異常があったそうで、5月24日に2.6トンのほぼ全量がアメマス、6月1日にも5.8トンの混獲のうち4.5トンがアメマスだったそうで、これはちょっと過去に例のない異常なアメマスの獲れ方ではあったそうです。このアメマスが獲れたのは東端の恋問の定置網で、これも不思議なことにアメマスは全てが40センチほどのサイズ揃いだったそうです。あまりに珍しいことだったのと、野付漁協のアメマス2匹とホタテ1枚交換の騒ぎが報道されたあとで、白糠の漁師さん達も野付の話は知っていて、このアメマスを野付に持っていってホタテを貰ってくるかと冗談話も出たそうです。他の日には、このような特異的なアメマスの混獲は無かったそうですが、今年の川のアメマスの少なさに、この異常なアメマスの混獲が少しだけは影響した可能性はあるかもしれません。
また、これは毎年のことですが、定置網にかかるアメマスは東の方ほどサイズが小さく、十勝の漁協の範囲と接する西の定置網ほどサイズが大きい傾向があるそうです。これが何を意味するのかは判りません。
ここまでを整理すると、今年は定置網によるアメマスの混獲は例年よりは、やや多かったようではありますが、毎年定置網での混獲はあって、今年の川のアメマスの少なさを、この混獲のせいだけにするのは無理がありそうということです。また、アメマスを良くはおもってないにせよ、白糠の漁協が積極的にアメマスを駆除しているということもあり得ないのです。
漁協にによる駆除の話の30~50トンという噂話も、今年の定置網の雑魚の混獲総量35.2トンの話だった可能性がありえそうで、これに3割という数字を仮に当てはめてみれば、混獲されたアメマスはおよそ10トンぐらいということになるのでしょう。
この10トンという数字が多いのか少ないのか、釣り人からみれば、そんなに獲ってるのともおもえますが、しかしこれはデータを見る限りは毎年似たような量は獲っているのですから、今年だけアメマスが極端に少なかった原因を定置網の混獲に求めるのは無理なような気がします。