屈斜路湖畔のクリンソウ |
屈斜路湖畔ではクリンソウが見頃を迎えています。サクラソウの仲間のもちろん在来種ですが、弟子屈町内では花壇にはあっても、フィールドではそれほど見かける花ではありません。
屈斜路湖畔でも私の記憶が正しければ二十年前には見かけたことがあったかどうか。それが、ここ十数年でどんどんと棲息範囲を拡げているのです。
屈斜路湖の北側には舗装道路はなく林道で繫がっています。美幌峠側の国道と、藻琴峠を越える道道にそれぞれ入り口があって、林道の長さは約20kmで、荒れた道ではありますが乗用車でもゆっくり走れば通り抜けられます。
この湖畔林道のちょうどまん中辺りに、山から湖へとシケレペンベツ川という小さな川が流れ込んでいます。小さなといっても20kmの湖畔林道が渡る川の中ではもっとも水量の多い川です。
クリンソウの棲息拡大は、このシケレペンベツ川辺りから始まりました。湖岸林道沿いに南へ進むものと、北へ進むものと、どんどんと範囲を拡げていますが、何故か生えているのはほとんどが林道脇なのです。林道より湖側や山側へ範囲を拡げていった例はほとんどありません。今ではシケレペンベツ川から南北それぞれ4kmくらいは分布するようになりました。植物が自然に分布を拡げる速度としては速すぎる気がします。
シケレペンベツ川には、川に沿って山の方へ向かう行き止まりのシケレペンベツ林道があります。この林道は滅多に車が入ることはなく荒れています。ここに車が入るのは秋のシカ撃ちのシーズンぐらいでしょう。じつはこの行き止まりの林道を1kmほど進んだ奥の森の中の小さなヤチ群には、私が移住してきたころから小さいながらもクリンソウが群生していて、これは今でもあるはずです。(今シーズンはまだ観に行っていませんが)
ここからは全くの想像ですが、今、屈斜路湖の北側の湖畔林道で繁殖範囲を拡げているクリンソウのルーツは、やっぱりこのシケレペンベツ林道の奥のヤチの群生地なのでしょう。1kmの林道をどうやって川沿いに降りてきたのかは謎です。種が川の大水で流されてきたのかもしれません。
ただ、それからが不思議でどうやって林道沿いに南へ北へと拡がっていったのか? 道路の両側ギリギリにしか生えないのは、少しは陽当たりが必要で、競合する植物が少ない場所を好む性質があるようなので、森の下草の中より生えやすいのだろう。というのは考えられそうです。が、種子の移動は人為的というか、故意にではないですが車が通行することで拡がっていくように見えます。もしエゾシカなどの動物が運んだならば林道沿いだけに戦のように拡がらず、森の中でも少しは日当たりの良い条件の良い場所なら増えるとおもうのですが、そのような例は見ません。逆に、湖畔林道に接続する支線林道で、車の通行がある場所だと少し奥まで分布を拡げている例もあります。水の流れに流されるなら、林道を山側へ、上には登れないでしょうが、少しではありますがそのように分布を拡げている場所はあります。。
クリンソウの栽培法をみると種子が出来たら乾かさないように保管して早く播くことを進めています。その方が発芽率が高いのだそうです。今咲いている花から出来る種が地面に落ちて、年内に発芽するのかどうかが今のところはっきり判りません。屈斜路湖畔のような寒冷地では翌春発芽でその翌年に花を付けるのではないかとおもわれるのです。
釣り人の車のタイヤと、晩秋から冬になるまで、積雪で通れなくなる前まで入るシカ撃ちのハンター達の車のタイヤが、種を運んでいるとみるのが良さそうな気がします。シケレペンベツ川から北へ南へ、離れれば離れるほど、徐々に株の数が減っていくのが、それを示しているようにおもえます。
もちろん花が終わって種が落ちて、それを釣り人の車のタイヤが運んで年内に発芽説もあるのですが、釣り人の車は支線林道を山側へ入って行くことは先ず考えられません。
ま、あとはどこかの植物生態学をやっている学生が、これを面白がって本格的に調査してくれると良いのですけれどね。湖畔のクリンソウひとつでも観ているとこんなに不思議なのでした。(じつは私が種を毎年播いてるんです、って人が出てきたら困る…)
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