ふたりの文庫 |
鈴木和雄さんと緑川淳さん、どちらも最初は「鱒や」のお客さんで、私の大切な釣り仲間でした。鈴木和雄さんは2004年に、緑川淳さんは2015年に、ふたりとも癌で亡くなりましたが、生前にふたりの間で面識はなかったとおもいます。
2004年の春、亡くなる半年ほど前に徳島市の病院に入院していた鈴木和雄さんを見舞いに行ったときのことです。ソーッと病室を抜け出して、徳島大学の鈴木和雄教授の研究室に置いてあった多量の釣りの本を持って行けとの指示で、本を段ボール箱詰めて持ち帰ってきたのです。その本の一部が「鱒や」の2階の本棚の半分を占めている鈴木和雄文庫です。その時、そんな話はふたりの間で一度も出ませんでしたが、膵臓癌で寿命がもう残り少ないことを、科学者として冷静に判断してのことだったのでしょう。
本棚の残りの半分は、私が購入した釣り関係の書籍か、または「鱒や」に来られるお客さん達から頂いた本です。お客さんの中に本を書かれたり、描かれたり、翻訳したり、写真集を出したりという方が多いので、これでまた本が増えてきています。
先日の旅の途中で東京の実家に顔を出したときに、千葉の緑川さんのお宅を訪ねました。生前に何度も遊びにおいで下さいと誘われていたのに、お馬鹿なことに伺ったのは初めてです。残された釣り道具やレコード、CDの多さにも驚きましたが、本棚の多量の本を眺めていて、なるほどなぁとおもったのでした。
緑川さんはフライフィッシングの他にもアメリカの戦後の若者文学やロックミュージックにも造詣が深い方で、音楽や小説でも私と趣味が合う部分がけっこうあったと思っていたのです。本棚に並んだ本を見ると、私より遥かに広く深く、その辺りの本を読んでいたことが判ります。どうりで私に話を合わせてくれるはずだと、やっと気づいたのでした。
緑川さんのご遺族の方から遺品の整理への協力を依頼されて相談した結果、「鱒や」の2階に本棚を増設して、緑川淳文庫とすることとしました。緑川さんの蔵書のほんの一部ではありますが釣りの本だけではなく、文学やロックミュージック関係の本なども含めて、私が感じた緑川さんらしいなとおもえる本、「鱒や」に来られるお客さん達が、ちょっと読んでみようか、観てみようかとおもって貰えるような本という基準でピックアップした分が今日送られてきました。
それにしても『日本産水棲昆虫』東海大学出版の1342ページの大著はまだ判るとしても、秋篠宮文仁 他 『欧州家禽図鑑』平凡社(秋篠宮が撮影したニワトリ117種他の写真で構成された図鑑)って、マテリアルの資料としてこの本持っているフライ釣り人って何人いるのでしょう? 好奇心の幅広さに驚かされます。
先ずはGWまでには本棚を増設して、読むことが出来るように整理しなければなりません。