晴れないで!! |
天気予報では曇天の涼しい天気になるとのことで、確かに朝から曇って気温も17~8度です。よし、野付半島に出掛けよう。目的は花と野鳥と昆虫の撮影です。この3つ、晴れてしまうとコントラストが強くなりすぎてしまってきれいな写真が撮れません、良い写真を撮るには曇っていることが大事なのです。
中標津の町を過ぎて標津の海岸に近づくにつれて、なにやら雲行きが怪しい、とはこの場合は言わないか。空が明るくなってきて、雲が切れて青空が見え始めてきます。さらに進むと日が差し始めて、野付半島に入ると、なんと空はほとんどピーカンになってしまったのでした。観光に来た人や、絵葉書みたいな広い景色を撮る人なら晴天は歓迎なのでしょうが、うーん、困ったどうしよう…
野付半島の内側、尾岱沼側はピーカンですが根室海峡側は海霧が出ています。この霧がときどき半島にも被さるように掛かるのですが、日を遮るほどにはなりません。
とりあえず双眼鏡とマクロレンズを着けたカメラを持って歩いてみます。2週間ほど前にここへ来たときにはエゾカンゾウが敷き詰めたように咲いて見事な黄色の世界だったのですが、もうエゾカンゾウの花はほとんど残っていません。替わりに咲いていたのが紫色の花たちで、とくにノハナショウブの群生地が素晴らしかったです。他にもエゾフウロやクサフジなども咲いていました。ハマナスは今年は花の付きが良いようで、野付ではちょうど今が満開です。
日が差している上に風もけっこうあって、花の写真を撮るには厳しかったのですが、エゾフウロをアップで撮ってみました。この花は咲いたときには先ずオシベが出て、オシベが落ちてから中央のメシベが5つに割れて開きます。たぶん自家受粉を防ぐためなのでしょう。
野鳥が少ないのが気になります。野付半島のお花畑の中はシマセンニュウ、コヨシキリ、ベニマシコ、オオジュリン、ノゴマ、カワラヒワなどの営巣地で、たくさんの巣があるはずです。いつもなら、この時期にはヒナが孵って、エサを運ぶ親鳥たちが忙しく飛び回っているはずなのです。が、託卵を狙うカッコーを何羽も見かけましたしたし、小鳥達のヒナはまだ孵らず、抱卵中の小鳥が多いために静なのではないかとはおもいます。
それでもすぐに巣へエサを運ぶオオジュリンとノゴマを見つけて、巣の場所もほぼ特定できて、これで10メートルほど離れた場所に三脚を立てれば、いくらでも巣にエサを運ぶ鳥たちを撮れるのです。が、このピーカンではどうせきれいな写真にはならないので、残念ながら諦めです。
虫はマルハナバチを狙っていました。とくにノサップマルハナバチという天然記念物級の珍しいマルハナバチが野付にはいるのです。しかし、他の種も含めてマルハナバチが全く見つかりません。今日見かけたのはハイイロマルハナバチ(もしかしたらニセハイイロマルハナバチ)の働き蜂が一匹だけでした。これだけ沢山花が咲いているのに…
野付半島のお花畑、この花は何のために咲いているのでしょう? 誰に観てもらうために咲いているのでしょう? 観光客に観てもらうために見事に咲いているのではないのです。
顕花植物というのは、花粉を運んで貰うために主に昆虫に来て貰うために、虫にアピールするために咲いているのです。エゾフウロもノハナショウブもヒオウギアヤメも、エゾカンゾウもクサフジも、センダイハギもハマナスも、どれも全て昆虫に花粉を運んで貰いたいがための虫媒花として、花を進化させてきたのです。
ミツバチは働き蜂がお互いに蜜のありかを教え合って、同じ花畑へ飛んでいって蜜を集めてきます。何種類かの花が咲いていれば、働き蜂たちは花の種類に拘ることはありません。
マルハナバチはミツバチと違って、個々の働き蜂が、これと決めた同じ種の花へと訪花することで蜜を集めてきます。植物の方から見れば、マルハナバチは便利なハチです。自分のところへ来てくれるマルハナバチは、同種の別の花へと必ず蜜を集めに行くわけですから、確実に花粉を運んでくれるわけです。
奥へ入る操作を覚えた虫だけが中に入って蜜を吸える。つまり自分の花粉を他の同種の花へ確実に運んでくれるよう、あえて蜜への虫の到達が難しくなるよう花の形を進化させたのがショウブやアヤメなのですね。
だからノハナショウブの群落へ行けばマルハナバチがいっぱいいるだろうとおもったのに全く居なかったのです。わりと朝型の虫だから、昼過ぎに行ったのが良く無かったのかもしれないけれど、それにしても全く居ないとは驚きです。小鳥達もヒナへのエサにマルハナバチの働き蜂をけっこう持って帰って来るのを以前は見かけていましたから、これは困るだろうなぁ。
たった1日の、それも3時間ほどの観察だけですから、野鳥に関しても虫に関しても、まったく見当外れの可能性もあります。が、ともかく何時もの年の何時もの時期にしては、野鳥も虫も今日は少なかったことはたしかです。
マルハナバチを撮ろうとマクロレンズを着けていたので、かわりに見つけたイトトンボを載せます。イトトンボもトンボですから肉食で、だから花粉を運んだりはしません。
写真をクリックすると、大きく見ることが出来ます。