呉の文化財的BAR「どん底」 |
重厚な建物に分厚いドアで一見さんお断り的な雰囲気ぷんぷん。店の入り口には「居酒屋 どん底」の硝子行燈だけ。うーん、この店気になるなぁ、でも入るのは勇気要るなぁ。
斜め向かいの気安い居酒屋でビールを2杯飲んで、財布の中の現金を確認して、ままよと重い扉を開けます。階段を数段下ると店の中が見渡せて、おお!! これは素晴らしい本格的なBARです。高い天井に広いスペースで凝ったインテリア。分厚い一枚板のカウンターの向こう側には和服の上に白い割烹着を着た女性です。
何にいたしますか? と訊かれてジャックダニエルズをロックでと頼んだら、封を切っていないボトルが最上段にあります。
申し訳ありませんが腰を悪くしていて無理が出来ません、棚のボトルをとって頂けないでしょうか?
初めて入った店で、いきなりカウンターの内側に入ってボトルを取って、ついでに封切りも私が、こりゃ面白いことになってきたぞ。
いやぁ、実に愉しかったです。2時間ほど店にいましたが客は私ひとりでした。たぶん今日の客は私だけだったのでしょう。この店の女性オーナー垣内さんは昭和4年生まれの83歳、プロの話術で実に愉しい時間を過ごさせてくれました。話題は主に戦後から昭和40年代ぐらいまでの呉の風俗史で、仁義なき戦いの時代には組長達もこの店はよく利用したそうです。
店は昭和28年に同じ場所でご主人が始めたそうで、今の建物は昭和45年に建て替えたもの。ご主人は同人誌などにも寄稿していたそうですし、店のインテリアなどを見ても粋な趣味人であったであろう事がわかります。
カウンターは厚さ17~8センチ、長さ十数メートルはあろう欅の一枚板で、鳥取でこの木を見つけて呉まで運ばせて製材したものだそう。ソファーのコーナーの周りは3面が本棚で文学や美術の古い本がギッシリと、でも美しく並べられています。
カウンターに座る私の背中側の壁は、キープしたボトルを預かるキーボックスが埋め込まれていて、この造りがまた素晴らしい。ここに自分のボトルを預けて飲みに来るってのも格好良いですね。
男はダメですねぇ。元気そうにしていてもポキッと逝ってしまう。女は丈夫で長生きしますよ。
と、昭和の終わりにご主人を亡くして以後は、女の子を雇って置いたこともあるけど若い娘は皆ダメでと独りで店を切り盛りしてきたそう。4年前に腰を手術してからは歩くのが辛くてと椅子に座っての接客ですが、日曜祭日以外は18時から23時まで店を開けているそうです。継ぐものもいないし何時まで続けていくことが出来るかと、ちょっと寂しそうではありましたが、元気で店を続けて頂いて、私もぜひまた再訪したい店でありました。
大馬鹿なことにカメラを忘れて飲みに出てしまったので、写真はiPoneのカメラで撮ったものです、失敗したなぁ。